OTC補聴器という選択 – 新しい補聴器の在り方 –

目次

最近、米国で活況を帯びているOTC補聴器について、制度による成り立ちから日米市場の状況を踏まえ、補聴器を紹介させていただきます。
OTC補聴器の対象は軽度から中度の難聴の方となりますのでご注意ください。

この記事を読んでいただくことで、OTC補聴器の背景が分かり、補聴器選びの一助となることを願っています。

OTC( Over-the-Counter)は店頭販売を意味します。端的には処方箋を必要とせず、聴覚専門家によるフィッテイングも不要な補聴器のことです。ここで取り上げる OTC補聴器は、従来難聴を個人の問題としていたものを、公衆衛生問題であり社会的インフラの損失と考えた米政府による政策の一環として生まれたものです。(もっとも、その発端は医療専門家や消費者団体による長年の訴えによるものです。)

難聴は、何百万人ものアメリカ人の日常の社会的交流において効果的にコミュニケーションする能力に影響を与える重大な公衆衛生問題である。

(FDA長官ロバート・M・カリフ医学博士)

2022年8月 米国食品医薬品局(FDA)による新しい規制により、18歳以上の軽度から中度までの難聴者に対して、処方箋や健康診断、聴覚士によるフィッティング調整が不要なクラスの補聴器が確立されました。バイデン政権は、この目的を「補聴器技術市場における革新と競争を促進しながら、OTC補聴器の安全性と有効性を保証すること」としています。

欧州の一部では補聴器購入に対して手厚い手当があるのに対して、米国では予算の問題や大手補聴器メーカなどの反対により法案化が遅れていました。
米政府は、軽度から中度までの難聴に対してはFDA規制によるOTC補聴器、高度以上の難聴に対してはメディケアという2つを柱とする政策でこの問題に取り組む姿勢が伺えます。(この他に 退役軍人省(VA)による補聴器の保証もあります)

FDAによる規制は2つのクラス「セルフフィッティング」「プリセッティング」を定義しています。「セルフフィッテイング」クラスのOTC補聴器では、スマートフォンで連動するアプリが装用者の聴力レベルを測定し、セットアップ時に補聴器にプログラムします。

OTC補聴器は価格が強調されやすい側面がありますが、OTC補聴器がもたらす意義を皆さんと考えてみたいです。
① AppleなどのBig Techやスタートアップなどの新規参入
② フィッテイングが聴覚専門家から補聴器使用者のものへ
③ ②による小売店・聴覚専門家を通さない補聴器の流通への影響

本ブログでは「セルフフィッテイング」クラスのOTC補聴器についてお話させていただきます。

① AppleなどのBig Techやスタートアップなどの新規参入

Big Techやスタートアップの一部は、社会的要請から聴覚アクセシビリティへの取り組みを行ってきました。Appleは既に iPhoneやMacを補聴器や人工内耳と直接ペアリング可能にするMFi(Made for iPhone)や、リスニングテストの結果をAirPods Proに取込み補聴器として使える機能などを既に製品化しており、OTC補聴器の要件をほぼ満たしていると言われています。(Appleの取り組みについては別途本ブログで取り上げたいと思います。)
また、AIなどを用いたノイズ除去、音源分離などの一部の聴覚技術は、既存の補聴器メーカのみで取り扱える枠を超えて急速に進歩しています。聴覚専門家が行うフィッテイングによる問題解決は 1 つのアプローチにすぎません。

このような背景から、Big TechやスタートアップによるOTC補聴器への参入は大いなる技術革新が期待されています。

② フィッテイングが聴覚専門家から補聴器使用者のものへ

補聴器を使用する私たちが、補聴器小売店や聴覚専門家を介さず、自分に合ったOTC補聴器を選択する必要があります。また、OTC補聴器のセルフフィッテイングはスマートフォン画面による指示に従って簡単に実施可能です(参考:Jabra Enhance Plusのセルフフィッテイング動画)が、現状ではある程度自分の聞こえに合わすための微調整が必要となる場合もあるため、自分の聞こえ・補聴器の機能の把握が必要になってきます。

将来、ABR(聴性脳幹反応)やOAE(耳音響放射)と言った聴力検査機器が超小型化し、補聴器・周辺機器に組み込まれるようになるかもしれませんね。そうなると、常時聞こえを測定し都度自動調整される世界になるのかもしれません。

今はOTC補聴器が発売されたばかりであり、メーカによっては聴覚専門家によるフィッテイングをオプションとして準備しているものもあります。

③ 小売店・聴覚専門家を通さない補聴器の流通への影響

既存大手補聴器メーカはFDA規制に反対しながらも、その一方で SONY、Jabra、SENNHEISERなど一般消費者に知名度の高いワイヤレスフォン・メーカへアプローチし、新たな OTC補聴器ブランドとしました。その上で OTC補聴器の第一弾として、WS Audiologyと Sonovaは既存の聴覚専門家の調整による処方補聴器を流用しているようです。コストコ(Costco)で販売されている補聴器でみたようにブランドを変えて既存機種を充てているようです。ここまでは同じですが、従来の補聴器小売店に向けたマーケッティングから補聴器を使用するエンドユーザへと変わるので、傘下の小売店チェーンの在り方が見直しされていくのではないでしょうか。

補聴器の小売価格に占める流通マージンは非常に大きいものがあります。将来 OTC補聴器の比重が高まると、補聴器本体の価格と聴覚専門家によるフィッテイングにかかる価格との分離が進み、消費者の選択の幅が広がると考えています。一部のOTC補聴器に見られる聴覚専門家による有償ケアオプションはその先取りではないかと感じています。
また、従来の新製品説明会などは小売店・聴覚専門家向けのものでしたが、補聴器使用者(エンドユーザ)向けのものも充実してくるのではないでしょうか。この面でも私たちの選択肢が増えていくと感じています。

OTC補聴器のメリット・デメリットについてまとめました。OTC補聴器の誕生からは間もなく、デメリットの中には今後解消していくものもあると思われます。

  • 低価格
    日本で発売されているOTC補聴器だと両耳10万円弱であり、安いと言われるコストコの処方補聴器のさらに約半額
  • 自分のスマホで何度でも納得がいくまで調整できる
  • 試聴期間が1か月以上設けられていることが多い(返品ポリシーは各社異なるので要確認)
  • 外観が補聴器に見えないものが多い
    SONY・Bose・Jabraなど一般のワイヤレスフォンとブランド・形状が補聴器と見分けがつかないものが多く、補聴器が初めての方にも抵抗なく身に着けることができる(OTC補聴器第一弾はブランドを変えただけのものがあり、ワイヤレスフォンと補聴器の技術的な相乗効果は今後に期待)
  • 手軽に購入可能
    オンラインショップで対面なしに購入可能
  • 聴覚ケアサポートを受けにくい:低価格のOTC補聴器では聴覚専門家によるサポート自体がないものが多く、サポートがあっても有償のものが多い(本来、OTC補聴器はセルフフィッテイングが前提なので当然ではありますが。)
  • 保証期間が短い
    ほとんどのOTC補聴器は1年間であり、充電式補聴器の耐用年数を3年と考えても2年目以降のメンテナンスが問題になる可能性がある
  • 日本ではセルフフィッテイング可能なOTC補聴器の選択肢が少ない:私の調べではJabra/Vibe/SHARP(2023年10月現在)の3社のみです
  • 細かい設定ができない
    例えば周波数ごとの調整は処方補聴器のものには及ばないなど
  • リモートマイクやテレビストリーマーなどの処方補聴器で使用可能な周辺機器が使えない場合が多い

補聴器は毎日除湿しましょう。除菌もしてくれます。

OTC補聴器元年である2022年から2023年にかけて、多くの製品が投入されています。いくつかをピックアップし紹介させていただきます。各OTC補聴器の機能詳細についてはリンク先を参照ください。(価格は両耳セットです。)
HIA(Hearing Industries Association)によると、米国の補聴器市場におけるOTC補聴器の売上シェアは2023年1Qでは1%にすぎませんが、対象がHIAメンバのみであること。OTC補聴器のFDA規制制定は前年度10月であることを考慮する必要があります。

メーカ製品名タイプ価格:$ストリーミングバッテリー:H防塵・防水専門家サポート
Jabra
(GN Store Nord)
Jabra Enhance PlusCIC800MFi12IP52なし
SONY
(WS Audiology)
CRE-C10
Signia Silk X
Vibe
CIC1000非対応70(電池)IP68なし
CRE-E10
Signia Active Pro
CIC1,200MFi26IP68なし
SENNHEISER
(Sonova)
All Day Clear
HelloGo
RIC1,400MFi/AHSA16IP68院内ケア$250
LexieLexie B2 PlusRIC999MFi18IP67リモートケア無料
EargoEargo 7 / Eargo SE / LINK by EargoCIC / CIC / IIC2,490 / 1,650 / 799非対応 / 非対応 / Bluetooth 5.316 / 16 / 9IPX7 / IP54 / IP54聴覚専門家によるリモートケア無料
(参考)
Apple
AirPods Pro2CIC199Bluetooth 5.36IPX4
米国で発売されたOTC補聴器の一部

製品背景や特長についてお話しさせていただきます。OTC補聴器の多くは45日間の試用期間(45日間であれば返品可能です)と1年間の保証期間となっています。
(写真は何れも販売サイトから借用しています。)

Jabra Enhance Plus

Jabraは親会社である GN Store Nordの GN Audio部門の企業です。ワイヤレスフォンで馴染みのある方もいらっしゃると思います。GN AudioとGN Hearingは統合される見込みで、ワイヤレス製品(Jabra)と補聴器製品(ReSound)の融合が進むことが予測されます。

Jabra Enhance Plusは、OTC補聴器向けにおこされた製品とされています。iOSのみストリーミングに対応しています。後から聴覚専門家によるサポートを受けるオプションは用意されていないので、注意が必要です。
片側2つの指向性マイクを備えノイズ処理を行います。(ピックアップしたOTC補聴器では2つの指向性マイクを備えているものが多いようです。)

今回ピックアップしたOTC補聴器の中で最も低価格です。現状で日本では Jabra Enhanceが購入可能です。

ReSound補聴器のマルチマイクやテレビストリーマーなどの周辺機器が使えないので注意が必要です。
Jabra Enhance Pro 10という名前が非常によく似た製品がありますが、こちらは処方補聴器(聴覚専門家によるフィッテイングされるコストコで販売されている補聴器です。)となりますのでご注意ください。

SONY CRE-C10、CRE-E10

WS Audiologyと SONYは2022年9月にOTC補聴器に関する協業契約を締結しました。WS Audiologyは傘下にSignia、WiDEXなどを持ちます。ブランドは 一般消費者に知名度の高い SONY、本体は既存機種である Signia Silk X(CRE-C10)やSignia Active Pro(CRE-E10)であるとされています。処方補聴器をセルフフィッテイング可能なように適用させているようです。CRE-C10は電池式で70時間、CRE-E10は充電式で10時間の連続使用が可能です。(画像は CRE-E10)

https://electronics.sony.com/more/otc-hearing-aid/all-otc-hearing-aid/p/crec10-2

CRE-C10はストリーミングに対応していません。CRE-E10は iOSのみストリーミングに対応しています。どちらも聴覚専門家によるサポートを受けるオプションは用意されていないので、注意が必要です。

CR-C10は以前は Vibeという製品名でOTC補聴器として発売されていたようです。Vibeは日本でも購入可能な数少ないOTC補聴器です。
SONY提携によるシナジーはこれから発揮されていくものと期待しています。

SENNHEISER All Day Clear

2022年3月に Sonovaは SENNHEISERのコンシューマー部門を買収しました。Sonovaは傘下に Phonak、Unitronなどを持ちます。ブランドは 一般消費者に知名度の高い SENNHEISER、本体は既存機種である HelloGoであるとされています。iOSおよび Androidでストリーミング可能です。

All Day Clearには病院での有償サポートオプションが用意されており、他のOTC補聴器と一線を画します。

有償サポートオプションを含めるとコストコで販売している補聴器の価格を上回りますが、Sonovaはコストコで販売されておらず、日本でも発売になったら、Phonakの代替えとしての購入もありかもしれません。(All Day ClearとPhonakのベンチマークは本ブログでも今後取り上げていきたいと思います。)
SENNHEISERコンシューマー部門買収によるシナジーはこれから発揮されていくものと期待しています。

Lexie B2 Plus

Lexie B2 Plusは Lexie B2 Powered by Boseの後継機です。装着者の固有の聴力プロファイルを分析するアプリ内聴力テスト機能の強化と、1 回の追加充電を収納できる新しい充電キャリング ケースが付属します。Lexieは HearX Groupの一員であり、スマートデジタル・ソリューションを通じて手頃な価格の聴覚ヘルスケアを提供することを掲げる新興企業です。Boseは自社で補聴器を開発・販売しましたが撤退。その後、Lexieとの協業により復活しました。iOSでストリーミング可能です。

前機種であるLexie B2 Powered by Boseは米コストコで唯一販売されている OTC補聴器です。無償リモートサポートがついています。

コストコ・バイヤーのお眼鏡にかなったOTC補聴器です。日本のコストコでも扱うようになるのかもしれませんね。

Eargo 7 / Eargo SE / LINK by Eargo

Eargo SE(下記写真、2024年1月31日)および LINK by Eargo(2024年1Q予定)が発売されました。Eargo SEは非常にユニークな形状をした Eargo 7の姉妹機です。LINK by Eargoは性能や価格帯面でJabra Enhance Plusと競合が予想されるイヤフォンスタイルのOTC補聴器です。今回の発売・発表によりプレミアム処方補聴器からJabra enhance Plusの様な廉価なOTC補聴器までのラインナップが整備されました。Eargoは自社の認可を受けた聴覚専門医による遠隔遠隔ケア サポートを提供することで、より高レベルのサービスを提供することを目指しています。ユーザーが選択できる 4 つのプリセット プログラムが付属し、他のOTC補聴器と比べて細かいセルフフィッテイングが可能なようです。Eargo 7 / Eargo SEはストリーミングは非対応です。

https://shop.eargo.com/eargo-se/

耳管内に収まる極小サイズ(IIC)、聴覚専門医によるサポート、2年間の保証期間を含めた価格はOTC補聴器としては高価ですが、他社のIIC型補聴器として比較すると充分な競争力を持った補聴器と言えます。

(参考)AirPods Pro 2

AirPods Pro 2は OTC補聴器として認可されていません。ですが説明の必要がないくらい多くのサイトで Air Pods Pro 2を補聴器として使用するノウハウが掲載されています。
Appleは既に iPhoneやMacを補聴器や人工内耳と直接ペアリング可能にするMFi(Made for iphone)や、リスニングテストの結果をAirPods Proに取込み補聴器として使える機能などを既に製品化しており、OTC補聴器の要件をほぼ満たしていると言われています。欠点は連続使用時間が6時間であることくらいです。

オーストラリアの国立音響研究所 (NAL) によると、騒がしい環境でリスナーの前での会話を測定した場合、AirPods Pro の会話ブースト機能と周囲騒音低減機能の両方により、周囲の騒音下での聴力が約7 デシベル向上することが分かりました。(参考:NALによるAir Pods Pro評価レポート

あなたが軽度~中度難聴で補聴器の経験がないのであれば、先ず AirPods Pro 2を試してみることをお勧めします。

日本では OTC補聴器の販売は認められており(というよりは日本では販売許可のみでルールがないように見えます・・)、通販などでも多くの補聴器が販売されています。

私はいままで、集音器(PSAP)と補聴器の区別もつかず、通販で販売されている補聴器(または集音器)は安い代わりに品質も保証されないというイメージを抱いていました。しかし、米国で制定されたOTC補聴器に関するFDA規制により大きく風向きが変わりました。軽度から中度の難聴の方は、今後 OTC補聴器をチョイスするのもありかなと思います。

日本で購入可能なセルフフィッテイング可能なOTC補聴器をご紹介します。(価格は両耳セットです。)
リンクで各補聴器の販売サイトへ遷移しますが、私がお勧めするといったものではないのでご注意願います。

とは言え、JabraやVibeは元々それなりの価格の処方補聴器(あるいは近いもの)なので、それがセルフフィッテイングで細かい調整ができなくなりますが、ここまで安くなっているのは私たちにとって選択の幅ができて歓迎すべき傾向と思えます。

メーカ製品名タイプ価格:円ストリーミングバッテリー:H防塵・防水専門家サポート
JabraJabra EnhanceCIC89,000MFi10IP52なし
WS AudiologyVibeCIC98,000非対応75(電池)IP68なし
SHARPMedical Listening PlugCIC99,800Bluetooth 5.020IP64有償サポートオプション
日本で発売されたOTC補聴器

米国で 2022年10月にFDA規制が発効し、2023年1Qにかけて多数のOTC補聴器が発売されているので、日本での発売は2024年春を待つ必要がありそうです。とはいえ、現状の各製品とも試聴期間があるので(AirPods Pro 2も含めて)試す価値はあると思います。

皆さまのより良い聴こえライフを願っています。

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この記事を書いた人

通信関係の開発やってます。重度難聴で両耳人工内耳を装用しています。

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