人工内耳は今後どう進化していくか – 各社の取り組み記事から – [2024/4/2]

人工内耳の未来 by AI画伯

私がいつもお世話になっている人工内耳の各メーカの取り組みについて、たびたびX(旧Twitter)で取り上げてきたポストを記事としてまとめました。

私は一介の人工内耳ユーザであり、聴覚や医療の専門家ではありません。目にした記事を紹介することで皆さんと共有し、今後の取り組みへ参考になればと考えています🙇

ざまざまな記事から得られている情報をまとめると、以下のような感じです。もちろん、これが全てではないので、あくまでも「こんなことをしている」というレベルに留めておいてください。今後も、本記事をアップデートしていきたいと思います。

メーカー取り組み進捗状況
コクレア遺伝子治療+人工内耳による、性能アップおよび手術による聴力低下防止を目的とした研究に参画性能アップ:
ヒトに対しての治験中

聴力低下防止:
ヒトに対しての治験中(第 2a相臨床試験)
完全な研究結果を 2024年第3四半期に発表予定
メドエル個々の患者の耳の構造に合わせたマッピングによる性能アップさせる研究へ資金提供小規模な研究では効果を確認済み
大規模な臨床試験実施中(時期などは不明:調査できていません)
メドエル遺伝子治療による人工内耳手術後の聴力温存フェーズ2試験についてFDA承認され、40人の成人患者を対象に治験中
アドバンスド・バイオニクス電極に代わり、遺伝子治療+光ファイバーによる人工内耳性能アップを目的とした研究に参画光駆動のためのデバイス開発中
2027年より臨床試験開始予定
ENVOY MEDICAL・マイクに代わり、鼓膜で受けた振動を電気信号に変換する
・完全埋め込み型人工内耳
ヒトに対しての治験中
2024年初めに治験機器免除(IDE)を申請し、同年後半に重要な臨床試験開始
目次

コクレア社の次期人工内耳のアプローチについて、いくつかの記事からその一端を垣間見ることができます。それは遺伝子治療と人工内耳によるハイブリッド治療です。1つは人工内耳の更なる聞こえアップ。もう1つは人工内耳手術による聴力低下を防ぐものです。

人工内耳インプラント電極アレイと消耗した聴覚ニューロンの間のギャップにより、通常は特定の音の周波数 (トノトピー) に関連付けられているニューロンを正確に選択し刺激することが困難になります。

人工内耳の工学的アプローチは限界にきていて、生物学的なアプローチが必要となっています。コクレア社と豪の4大学で進められている研究は、遺伝子治療により聴覚神経線維をインプラント電極アレイへ向けることによって、人工内耳の性能をアップさせる。音楽にも有効な治療となるとしています。

  • 初のヒト臨床試験であり、インプラント装着者15人が参加し、聴覚のダイナミクスとピッチ知覚に影響を与える人工内耳の「神経ギャップ」に対処することを期待している。
  • CI622電極アレイを挿入する直前に、「遺伝子送達アレイ」と、動物実験でインプラント電極アレイに向けたニューロンの迅速な指向性再成長を刺激することが以前に示されている小さなDNA分子(神経栄養因子BDNFおよびNT3)を人工内耳へ挿入します。溶液が送達され、次に 1 秒未満の短い電気パルスが電極間に通過し、DNA分子が標的細胞に送り込まれます。その後、「遺伝子送達アレイ」は引き抜かれて廃棄され、人工内耳手術は通常どおりに続行され、通常の人工内耳アレイが挿入されます。
  • これにより、トノトピックマップ(内耳内の周波数の空間分離)をより忠実に再現し、ピッチ知覚を改善できる可能性があります。 「これは、神経の近接により電極密度の増加が有益となる『次世代』人工内耳ではさらに改善される可能性があります」(UNSW生理学ゲイリー・ハウスリー教授)

SENS-401という難聴治療薬を開発し、突発性難聴について第2相臨床試験を実施。
72時間以内に60%が聴力回復不可能と言われる突発性難聴に対し、72時間以内に治療を開始し3か月後に被験者の50%が正常な聴力を保った。今は、フェーズ2の実証として2つの試験を実施している。

  1. コクレア社と協力し人工内耳手術後の残存聴力の一部を維持できるか試験し、治療なしと比べ20dBの差があった。ドリルで穴を開けるときの騒音、電極挿入による炎症、電流が流れることによる線維化を阻止する。動物実験で阻止できることを確認した。2024年前半にデータをまとめて公開する。
  2. がんで化学療法を受けている成人患者向け治療。60%が化学療法後に難聴になる。

Sensorio社は難聴遺伝子を発見したパスツール研究所とコラボしてきた。今後は2つのステップで進めていく。

  1. DFNB9という欠陥遺伝子が原因で有毛細胞に必要なオトフェリンというたんぱく質を発現せず、遺伝子の良好なコピーを復元する。アメリカと欧州では毎年1,100人の新生児がオトフェリン欠損症を持って生まれる。
    こちらは臨床試験の申請を出した。

2. GJB2遺伝子に焦点をあてる。
 生まれつき聞こえない子供の50%がGJB2遺伝子の欠陥によるもの。
 30歳で難聴になり50歳で完全な難聴になるタイプの難聴に特定のGJB2遺伝子の変異によるもの。

今後、人工内耳か遺伝子治療薬による治療かケースバイケースで選択されるようになるだろう。
新生児スクーリングにおいても、遺伝子検査の結果、適用可能なら遺伝子治療、そうでなければ人工内耳といった選択が行われるようになるだろう。

オトフェリン欠損症に対する遺伝子治療については、Sensorion以外にも各国の研究機関が成果を出しています。

Sensorion CEO interview

仏バイオ企業 Sensorionは、人工内耳移植後の残存聴力の維持を目的とした薬剤候補 SENS-401の第 2a相臨床試験で主要評価項目を達成したと発表。 試験は移植前の数回に渡る経口投与後に内耳液中の SENS-401 の存在を潜在的に治療レベルで評価を目的とし、中重度の聴覚障害障害の患者を対象とした。

潜在的な治療効果と一致するレベルの SENS-401 が外リンパに残存することが治験対象者の 100% で確認されたと報告。試験では、ランダムに抽出された28人の患者(25人が手術を受け、16人がSENS-401治療あり、9人が治療なし)について、様々な周波数で治療前後の聴力閾値の変化なども評価した。

追跡調査は継続し、完全な研究結果を 2024年第3四半期に発表予定。第2a相試験はコクレア社と協力して実施され、コクレア社はSENS-401配布のライセンス権をSensorionと交渉するオプションを持つ。SENS-401は進行性または続発性の聴覚障害につながる損傷から内耳組織を保護するように設計。

第2a相試験で人工内耳移植を受ける患者の残存難聴予防の可能性評価し、別の第2相試験でシスプラチン誘発性聴器毒性予防の有効性評価。SENS-401は欧州で突発性感音性難聴の治療用としてEMAから、また小児のプラチナ誘発性の聴器毒性の予防用として米国で FDA から希少疾病用医薬品の指定を受ける。

メドエルはマッピング最適化による聞こえ向上の解を見出そうとしているようです。今は大きな差はないと言われる人工内耳ですが、そのアプローチの違いにより、個々に応じた選択肢が広がるのかもしれません。
現状でも、メドエルはインプラントがコクレアのものよりも長く、かつ長さのバリエーションが豊富で、これをカスタマイズとしています。さらに、マッピングは全体最適化がかかり、コクレア社のそれよりも自動調整度合いが強いということを聞いたことがあります。

また、コクレアと同じく遺伝子治療による人工内耳手術後の残存聴力保護についても治験を勧めています。

「それは調律の狂ったピアノを聴いているようなものでしょう。私たちが現在行っていることは、実際に各電極をマッピングして、個々の患者に合わせてピアノを調整することです。」

ウェスタン大学・アグラワル博士
  • シンクロトロンイメージングという先進的な技術を使って、人間の耳の内部構造を非常に詳細に撮影することに成功した。これより、蝸牛の3D画像を作成し、それを基にして、聴覚インプラントの音質を向上させるためのカスタマイズされたマッピングを可能にした
  • 蝸牛は音を脳に伝える役割を持っていて、その構造は非常に複雑で、人体で最も硬い骨に囲まれています。これまでは、その詳細な構造を観察することが難しかったのですが、シンクロトロンイメージングによって、細胞レベルでの高解像度の画像を得ることが可能になりました
  • 新しい技術を使って、個々の患者の耳の構造に合わせたマッピングを作成し、それに基づいてインプラントを調整することで、より自然な音を再現できるようになる。従来の「フリーサイズ」のアプローチとは異なり患者一人ひとりの耳の形状に合わせて最適化されたインプラントを提供する
  • 実際に、このカスタマイズされたプログラミングを適用した小規模な研究では、標準的なプログラミングよりも良い結果が得られ、現在、より大規模な臨床試験が行われている。この研究にはメドエルが資金を提供している
  • 画像処理と機械学習を使用して、周波数マップを作成し、それらの個別マップを使用してインプラントをプログラムする
  • 音楽の鑑賞力、音言語の鑑賞力、そして全体的なパフォーマンスを向上させたいと考えている
  • このパートナーシップにより、基礎科学者と臨床医がこれまでにない形で協力する機会が生まれる。これは、患者ケアに直接適用する、非常にユニークなパートナーシップとなる(メドエル社コメント)

参考文献:
“Morphologic Analysis of the Scala Tympani Using Synchrotron: Implications for Cochlear Implantation”
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/lary.31263 (リンクを貼るとエラーになってしまうため、URLをコピペして参照ください🙇)

SPI-1005の臨床試験: Sound Pharmaceuticalsは、蝸牛インプラント(CI)患者におけるSPI-1005のフェーズ2試験についてFDAの承認を受けました。この試験の目的は、蝸牛インプラントの施術中および施術後に残存する聴力の喪失を減少させることです。
PI-1005 (エブセレン): SPI-1005は、聴覚と平衡感覚に不可欠な酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼの活動を模倣し、誘導する新しい抗炎症化合物です。これは、成人患者における様々な形態の感音性難聴に対して安全性と有効性を示しています。

アドバンスド・バイオニクス社はドイツで実施されている研究に参画し、従来の電極アレイの代わりに光遺伝学的遺伝子治療と光刺激装置を使用して開発した人工内耳の有効性を証明するため、2027年に臨床試験を開始したいと考えているようです。新しい人工内耳は、気密封止されたレーザーダイオードアレイを使用して光を放射し、光ファイバーのようなポリマー導波路に焦点を合わせて電気入力を置き換えます。初期調査では、この装置は大量生産され、最長 20 年間着用できる可能性があることが示唆されています。

  • この共同プロジェクトは、ゲッティンゲン大学医療センター(UMG)、ライプニッツ・ハノーファー大学(LUH)、優れたクラスターMultiscale BioimagingとHearing4all、ゲッティンゲンのスタートアップOptoGenTech GmbH、およびCIメーカーのAdvanced Bionics GmbHが参加している。
  • この技術は、電流の代わりに光を使用して聴覚ニューロンをより効率的に集中させ、刺激することで、インプラントの音声エンコードの低品質に対処することを目的としている。現在、各電極からの電流の横方向への広がりが大きいため、同時に刺激される聴覚ニューロンが多すぎることを意味しており、そのため、ユーザーは混雑した騒がしい環境で会話するのが難しいと感じる可能性がある。
  • 蝸牛のらせん神経節ニューロンに光活性化イオンチャネル(「分子光スイッチ」)を導入し、光に感受性を持たせるために遺伝子治療も使用されます。動物モデルへの適用が既に成功していることに引き続き、この技術は人間への適用のためにさらに開発される必要があります。
  • 2027年に予定されている最初の臨床試験の開始までには、かなりの研究が必要である。チームは特にレーザーダイオードを駆動するチップを開発し、ベンチャーキャピタルの資金を確保する必要がある。その他の課題には、安全性への懸念への対処や、長期にわたる聴覚神経損失の証拠が含まれる。
  • メルボルン大学の研究者など、他の研究者も光ベースの人工内耳の開発を検討している。

Envoyは、人工内耳のスタートアップです。既存人工内耳とは一線を画す2つの大きな特徴があります。
ここでは時系列の3つのニュースやインタビューをご紹介します。

Envoy Medical は最近、完全に埋め込まれた人工内耳インプラントの臨床試験を開始するため、 FDA が調査機器免除申請を承認しました。臨床試験について、Envoy Medical 社CEOへのインタビュー。

  • 完全埋め込み(外部装置がない)
  • 鼓膜から中耳へ伝わる振動を電気信号に変換し人工内耳インプラントへ送る
  • バッテリーは胸に埋め込む
  • 早期実現性調査の段階では対処は成人
  • 自分が人工内耳適用対象となることを知らない人が多い
  • メディケアの対象外てあり、聴覚学者・外科医は政治への働きかけを
  • 大手メーカーの既得権利益が優先される
  • 普及率の低さには、人工内耳のスティグマがある
  • 聴覚業界にはイノベーションが必要だ

ENVOY Medicalの世界初の完全埋込み型人工内耳の治験進捗です。ENVOY Medicalの人工内耳は、鼓膜で受けた振動を電気信号に変換するユニークなデバイスです。

  • FDAよりブレークスルー デバイスの指定を受け、初期の実現可能性を検証中
  • 3 回の手術は全て合併症なく進行
  • 手術開始時点で 3 人の患者全員がデバイスを通じて聴覚を保持
  • 手術は標準的な人工内耳と比べて技術的に難しいが必要スキルは専任の耳鼻科外科医が習得
  • 2024年初めに治験機器免除(IDE)を申請し、同年後半に重要な臨床試験を開始予定

Envoy Medial社が手掛ける完全埋め込み型人工内耳は間もなくメディケアの対象となる可能性があります。埋め込み型のみならず注目すべきは従来のマイクに変わり鼓膜・中耳を介した振動を電流へ変換し人工内耳インプラントに信号を送るメカニズムです。製品化されれば人工内耳の選択が増えますね。
FOX Businessニュースのインタビュー中に株価は78%まで上昇。NBAのオーナーでもあるGlen Taylor氏と旧幹部の間での訴訟問題(昨年和解)、先物購入契約に関連した会計上の矛盾を追求されるなど様々な話題をも提供しています。
個人的には場外乱闘だったり、ガバナンスな問題だったり、ちょっとキナ臭さを感じますが、何といってもFDA承認は大きな推進力になっているんでしょうね。

難聴な私たちにはかかせない電子メモパッド。データのPCへの取込みなど様々な機能を搭載したものがありますが、私のお勧めはシンプルで安価なものです。電子メモパッドには二つの思い出があります。一つは、転職した際に当時の上司が部署全員にメモパッドを配布して私を迎えいれてくれたこと。当時は補聴器を装用するもほとんど会話が困難だったため、相手の方から進んでメモパッドを使ってコミュニケーションいただきありがたかったです。もう一つは、人工内耳をしてから初めてお会いした方からメモパッドをいただいたことです。その方は、たぶんいつも初めて会う人にメモパッドをプレゼントすることで、ご自身の難聴の状況(メモパッドが必要な状況であること)を相手に理解してもらい、会ってすぐにスムースにコミュニケーションができる。そんなことを考えてらっしゃる素敵なかたです。この安価なメモパッドを状況に応じてこれからも活用していきたいと思っています。

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この記事を書いた人

通信関係の開発やってます。重度難聴で両耳人工内耳を装用しています。

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