2024 年の音響性能ベスト補聴器 [2024/4/30]

補聴器選びは選択肢も多く難しいですね。アメリカを代表する独立系補聴器評価研究所である HearAdvisorが軽度から中度難聴向けの各補聴器の聴こえの明瞭度をスコア化し、オンラインで補聴器を試聴比較する手段を提供し始めています。ここでは、HearAdvisorによる評価結果・評価方法、評価結果に対するフォーラムのやり取りを紹介したいと思います。

目次
  • 鼓膜の代わりにマイクを装着した音響マネキンを用いて、8台の高性能スピーカーを使って現実世界の環境音の中での会話を録音したものを再生
  • 対象となる難聴は軽度から中度の傾斜型難聴の形状を示すオージオグラムを想定。これは補聴器ユーザの平均的な損失に近いため選択された
  • 初期フィットは、基本的な指示に従った場合に補聴器がどのように聞こえるか。処方補聴器の場合、フィッテイングソフトウェアの最初のフィードバックを用いることであり、市販補聴器(OTC)の場合、その場での聴力検査に対して調整された応答を提供すること
  • 調整されたフィットとは、対象となる難聴者に利用可能な調整が全て行われた場合に補聴器が、どのように聞こえるか。聴覚学者が対象となる難聴者の処方にできるだけ近づくようにコントロールを調整しながらマネキンの鼓膜の信号をリアルタイムで分析した。最後に各録音にスコアをつけた
  • 知覚神経性難聴のモデルを活用する聴覚科学文献からの指標を用いて、各録音の明瞭度を予測する
  • これらの指標を静かなシーンと大きな音のシーンで個別に平均し、音声認識の利点の指標へ変換した
  • Hearing TrackerのHPで各補聴器を試聴し、音声認識がどの程度向上するかを比較することができる

このテストの特筆すべき点は、評価方法を補聴器で聞こえる音に対して、知覚神経性難聴のモデルを使って明瞭度を予測していることです。今までの評価方法はテスターとしての難聴者のサンプル数を増やすなどして、テストの精度を上げようとしていましたが、それは主観評価に変わりなく、難聴モデルを用いることによって、客観的な評価方法を確立したと思われます。

注意点として、対象が軽度から中度の傾斜型難聴の形状を示すオージオグラムを示す難聴者を想定したテストであることです。限られたパターンではありますが、その上で評価結果を見て・聞いていただき、補聴器選びの参考になればと考えています。

上位10製品を掲載しています。HPでは全65製品の順位が、スコアおよび試聴サンプルと共に示されています。青色が市販補聴器(OTC)、赤色が聴覚専門家による調整が行われる処方補聴器です。是非、HPに掲載されているサンプルを聞き比べてみてください。

  1. Sony CRE-10
  2. Oticon Intent
  3. Lucid Tala
  4. Lexie B2
  5. Oticon More
  6. Lucid Engage
  7. Oticon Real
  8. Jabra Enhance Select300
  9. Widex Moment
  10. Audicus Omni2

ベスト10位中OTC補聴器が6製品ランクインしていることに対して、HearAdvisorは以下の見解を述べています。

  • Jabra Enhance Plus のような市販補聴器(OTC補聴器)は場合によっては、処方補聴器と同じ性能を提供できるが、考慮すべき重要な注意事項がいくつかある
  • OTC 補聴器は、特に軽度から中等度以下の難聴のユーザーを対象としている。この損失を持つユーザー向けに最適化された場合、一部の OTC 補聴器は、処方補聴器のレベルまたはそれに近いレベルでパフォーマンスを発揮できる。しかし、HearAdvisor がテストした補聴器が、より重度の難聴向けにプログラムされていたり、標準的ではない形状であったりしていれば、一部の OTC補聴器の効果の低さははるかに低かったであろう。テストされた 処方補聴器は、重度の難聴を持つユーザーのニーズを満たすために、より多くの増幅を提供できる
  • 処方補聴器では、「最初のフィッティング」に独自のフィッティング ソフトウェアを使用することが多く、音声の明瞭さよりも音の快適さを優先する場合がある。これにより、初期フィット スコアが低くなり、最終的なサウンドスコアを計算する際に重み付けが高くなる。サウンドスコアの計算方法とその背後にある理由について詳しくは、ホワイトペーパーを参照のこと
  • HearAdvisorは、対象となる難聴に適切な音響レベルを適用するのを支援する高度なツールを使用して、ラボ内の OTC および 処方補聴器の増幅を最適化した。ほとんどの補聴器ユーザーは、OTC補聴器を使用してこのような完全に有益な設定を自分で実現することはできない。一方、実耳測定を行う聴覚専門家による場合は、両方のタイプの補聴器で調整が可能である

軽度から中度難聴を対象とするならば、OTC補聴器も選択肢となりえるといテスト結果ですね。価格面でも、OTC補聴器は処方補聴器の数分の一とコストパフォーマンスも優れています。
テスト結果で注意が必要なのは、繰り返しになりますが傾斜型難聴の形状を示すオージオグラムを示す難聴者を想定してのものであること。そして、OTC補聴器の場合、通常はセルフフィッテイングと言って、購入したユーザが自分でスマートフォンの調整ツールを使って実施するのに対して、テスト最適化条件では聴覚専門家がフィッテイングしているという点です。

OTC補聴器については以下の関連記事も参照ください。

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HearAdvisorは、「良い補聴器」を以下のように定義しています。

一般的な加齢性難聴で最高の聞こえを得るには、補聴器が適切な高周波(高音)増幅を提供することが重要です。高周波を強調すると音質が大幅に変化し、第一印象で自然なサウンドが得られなくなる可能性があります。しかし最終的には、失われた高周波音(しばらくはっきりと聞こえなかった音)を置き換えることが、音声をよりよく理解するための鍵となります。
したがって、サウンド サンプルを聞いているときは、音質の観点から最もよく聞こえるものと、音声の明瞭さに最大のメリットをもたらすものは一致しない可能性があることに注意してください。経験豊富な補聴器ユーザーであれば、最初は補聴器が不自然で明るすぎるように見えることがありますが、時間の経過とともに脳が慣れ、より自然に聞こえるように再訓練されることをよくご存じでしょう。
また、サウンド サンプルだけでなく、静かな環境や騒がしい環境での音声パフォーマンス、自分の声の品質、フィードバック処理、オーディオ ストリーミングの品質に関する評価をクリックして確認することをお勧めします。

HearAdvisor「良い補聴器」とは

残念ながらサンプルは英語です。一般にフィッテイングとは、難聴者に適合する補聴器を選択しそれを適切な状態に設定する過程を言います。その手順としてはNAL-NL2などが有名ですが、これらはあくまでも英語を主体とした言語を想定したフィッテイング手順なので、そう言ったことを踏まえて日本語圏ユーザは補聴器を選択していく必要があります。
参考リンク:補聴器の進歩と聴覚医学「補聴器の fitting について」

上記で紹介したHearAdvisorによるテスト結果について、Heearing Trackerのフォーラムで議論されている内容をピックアップしてみました。

  • 上位の補聴器より下位の補聴器の方がチャネル数が多いものがある
  • 1位のSony CR-E10のベースモデルはSignia Active Proであり、これより新しいテクノロジーであるSignia AXやIXの方がランクが低い
  • ランクの高いOticon MoreはOticon Realより前の世代のものである

これらの指摘に対して、テストを主導したベイリー博士は「違いに混乱していますが、結果は本物であり、一貫性を確保するために再テストを実行しました。」としています。

  • 補聴器会社は研究開発に多大な投資を行っているため、私たちもこれには非常に困惑しました。しかし、すべての製品の発売が、マーケティングが示唆するほど啓示的なものではない可能性が高いのは当然です (特に、発売までの期間が加速していることを考慮すると)。これを説明できる可能性があることに私たちが気づいたことは、メーカー独自のフィッティング アルゴリズムのデフォルトのゲイン設定が減少していることです。 3000 Hz 付近は音声明瞭度にとって最も重要な周波数範囲であり、ゲインが低いとスコアが低くなります
  • サウンドパフォーマンスに関する主観的なフィードバックに関する大きな問題の 1 つは、増幅効率 (私たちが重視するもの) を音質と誤解することがよくあることです。 HearAdvisor のサウンドスコアは、(軽度の傾斜から中等度の難聴を伴う)補聴器の使用中に、静かな環境や騒がしい環境で得られる聴力の利点に重点を置いています
  • 「オープンフィット」補聴器は、外耳道を開いたままにする補聴器です。これまでに HearAdvisor によってテストされた処方デバイスはすべて、オープンフィット補聴器とみなされます。 「クローズドフィット」補聴器は、空気の出入りをほとんどまたはまったくさせない、ぴったりとしたカスタムモールドまたはゴム/シリコンのイヤーチップで外耳道を密閉する補聴器です。 Sony CRE-C10、Jabra Enhance Plus、Apple AirPods Pro 2 などのデバイスは、クローズドフィット デバイスとみなされます

OTC補聴器 v.s. 処方補聴器の構図で、よりよい補聴器の選択について健全な議論となっているように見受けられます。

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この記事を書いた人

通信関係の開発やってます。重度難聴で両耳人工内耳を装用しています。

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コメント一覧 (2件)

  • あまのじゃく2.0様 ブログをいつも拝読させて頂いております、zettonと申します。私は50代の半導体関係のエンジニアで両耳の感音難聴を患っております。聴力レベルは70〜75dBの低音失調形?の高度難聴です。今はGNリサウンドのリンクスクワトロを使っております。この機種はBluetooth機能は重宝するのですが、アンテナの故障が頻繁に起こります。今次を探しておりり、リンクを貼られていたサウンドトラッカーの調査結果から、次期Philipsの9050が発売されたら試してみたいと思っております。ブログに書かれている知見やあまのじゃく2.0さんの技術的な考察は何時も本当に為になるし、勉強させていただいております。今後もブログの更新を楽しみにしております。取り急ぎ、ご挨拶まで。

    • zettonさん、コメントありがとうございます。コメントをいただいたこと自体がとてもうれしいです。
      9050をお待ちなのですね。とても良い機種のようですね。私も、米コストコで販売されたか日々チェックしています。^^;
      Hearing Trackerフォーラムをご覧になっているとのことなので、コストコとPhilipsの価格交渉だとか、DNNの学習サンプルに違いがあるかもとか、なかなか興味深い話が続いていますね。
      今後とも、よろしくお願いいたします。

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