市民公開講座 わかりやすく解説する難聴の診断と治療の進歩 [2024/10/26]

将にタイトル通り、とーってもわかりやすくワクワクする講演でした!宇佐美先生、西尾先生、神谷先生、素晴らしい講演ありがとうございました。

いつものお断りとなりますが、本記事は講演者の許可なく、私の方で勝手にまとめたものです。内容の誤りはすべて私に起因するものです。個人の感想としての扱いとさせてください。また、予告なく本記事を修正・削除する場合があります。

目次

思い起こせば、ちょうど1年前の講演で、宇佐美先生は講演の締めに遺伝子治療について言及されました。あれから1年、私たちも新聞などのメディアで遺伝子治療について驚くべきニュースを目の当たりにするようになっています。

  • 「難聴」という症状の原因で最も多いのが「遺伝子」であり、難聴患者の約40%に原因遺伝子が見出される
  • 遺伝子とは体の設計図であり、設計図をもとに体の部品であるタンパク質が作られる。遺伝子で難聴になるのは、聞こえに必要なたんぱく質が足りなくなるから
  • 両親に難聴者がいなくても難聴になる。遺伝性難聴の70~80%は劣性遺伝(変異が2つないと難聴にならない)
  • 難聴の原因になる遺伝子は2021年で130以上報告されており、効率的に解析する必要がある
  • 日本人約一万人の難聴者の遺伝子的背景が明らかになった(2022年)「51遺伝子1140変異」(2024年)
  • 正確な診断
    • 1万症例に既知の難聴原因遺伝子63遺伝子の解析を行ったところ、約40%の症例で原因を特定できた
    • 発症年齢別には、言語取得前では約50%、40歳以上では約20%で原因を特定。発症年齢により原因遺伝子の種類が異なる
    • 難聴発症時期に関しても傾向がある
  • 聴力予後の推測
    • 典型的な聴力像と進行性に関しても明らかになった
  • 後天性発症で遺伝子が関係する難聴の特徴:「症例:30代、40代で難聴を自覚、徐々に進行している」
    →原因遺伝子が見出されることが多く、将来を見据えた治療法の提案が可能
    若年発症型両側性感応難聴:若年発症型両側性感音難聴(指定難病304) – 難病情報センター
  • 適切な治療法の選択:補聴器か?人工内耳か?
    • 内耳の障害の程度により使い分ける:軽度~中等度の内耳障害は補聴器、高度の難聴障害(70dB以上)は人工内耳(内耳に原因がある場合には人工内耳の効果が高い)
  • 人工内耳装用児の70%(遺伝子・サイトメガロ・症候群・内耳奇形・蝸牛神経低形成)で原因診断可能で、難聴の原因毎に装用効果が異なる(興味深いグラフも提示されました。お見せできなくて残念)リハビリも原因ごとに実施
  • 将来的には原因遺伝子に応じたピンポイントの医療を提供可能(原因遺伝子が分かれば、どの細胞の機能が低下しているのが分かる)
  • 2023年、米中でOTOF遺伝子治療が開始された。今後も別遺伝子治験が予定されている
  • 遺伝子治療や再生医療ができるようになるまで待っている方は、待ってはいけない。先天性難聴では補聴器や人工内耳で音が入らないと、音や言葉を聞くための脳の神経ネットワークが活性化しない。成人性難聴ではきこえの神経ネットワークを使わないと認知症のリスクがある
  • 人工内耳をしても、低侵襲な手術であれば、遺伝子治療や再生医療は可能
  • まとめ
    • 遺伝子検査を受ける
    • まずは補聴器・人工内耳で聞こえを取り戻す
    • 将来、遺伝子治療ができるように、低侵襲の人工内耳手術を受ける

ざっと、講演スライドをほぼコピーしました。。
実際のスライドには豊富な図やグラフが提示され、情報量が多く、とても説得力のある講演内容でした。

この講演はいままでにないほど、踏み込みつつ、しかもわかりやすく、とても勉強になりました。

  • 音の基本的な性質
    • 音が高い:振動数が多い(周波数が高いともいう)⇔ 音が低い:振動数が少ない(周波数が低いともいう)
    • 音が大きい:振幅が大きい ⇔ 音が小さい:振幅が小さい
    • 実際の音は、いくつかの高さの音が重なりあっている。いくつかの大きさの音が重なりあっている
  • 音が聞こえる仕組み:(動画で耳介から入った音が、蝸牛まで入って、聴神経が刺激されるまでの流れを説明)
    • 内有毛細胞:音を感じ取るセンサー=マイクの役割に相当
    • らせん神経節:内有毛細胞からの音のシグナルを脳に届ける=コードの役割に相当
    • 外有毛細胞:音を増幅する=アンプの役割に相当
    • 血管条:音を聞くために必要な電気信号を作り出す役割=電池の役割に相当
  • 音の高さを区別する仕組み
    • 音の高さ(周波数)に応じて、蝸牛の異なる位置で聴取。高音は蝸牛の入口、低音は蝸牛の頂
    • 低い音(1000Hz)では、「位相固定Phase Locking(刺激に応じて神経発火)」も併用する
  • 人工内耳のしくみ
    • 自動音量調節→特定の高さ(周波数)の音だけを通す→本来人が聞いた音の大きさに調整→インプラントへ
      参考:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3707130/
    • 従来の刺激方法(CIS)刺激レートは一定で音の高低は電極位置で聴取
      →1500ppmの固定レートで刺激した場合、先端の電極でも少し高い音に聞こえる
    • 現在の刺激方法(FS4:メドエル)位相固定Phase Locking+電極位置による聴取
      →低音部の音が本来聞こえる高さと同じ高さに聞こえる。雑音下の聞取りも良好

低い音は、その振動数がそのまま脳に伝わります。高い音は、「1500Hzの音をキャッチした」という情報が脳に伝わります。脳では、性質の異なるこの2つの情報をミキシングします!

  • 難聴遺伝子治療のこれまでの経緯
    • 90年代後半~  原因となる遺伝子がわかってきた
    • 2000年代後半~ 遺伝子機能の異常がわかってきた
      GJB2遺伝子変異による難聴の遺伝子治療:https://www.atpress.ne.jp/news/59818
    • 2023~2024年  世界初(米・中・英)の難聴患者への遺伝子治療が開始された(OTOF遺伝子の遺伝子治療
  • 遺伝子治療とは、遺伝子変異で部品(遺伝子)が欠損していたり、働きが悪くなった耳に正常な部品(遺伝子)を加えて耳を修理する方法
  • 難聴の遺伝子の治療の方法
    • 正常な遺伝子で薬を作る
    • 内耳に注入する
      →難聴への遺伝子治療の効果が初めて確認された
  • 様々な遺伝子(OTOF、GJB2など)変異への遺伝子治療が開発中
    →耳の機能を修復→聴力が回復

講演の大事なテーマは、一つは昨年の講演の柱だった「遺伝子検査を受けよう」に加えて、遺伝子治療の経緯と最先端の治療状況を私たちにもわかりやすく解説下さった上で、大事なのは今のベストを選択していくこと。すなわち、将来の遺伝子治療を見据えながら、補聴器・人工内耳による補聴・リハビリをしっかり行っていくということだと感じました。

神谷先生のGJB2遺伝子に関する最近のニュース記事です。

  • 研究目的: 遺伝性難聴の原因となる細胞をヒトのiPS細胞から作り出し、病気の状態を再現すること。
  • 研究成果: GJB2遺伝子変異による難聴のモデル細胞を作成し、病気の原因となる細胞間の物質輸送の低下を確認。
  • 意義: この技術により、遺伝性難聴に対する新しい薬や遺伝子治療の開発が期待される。
  • 今後の展望: 多様な遺伝子変異に対応した治療法の開発を目指し、さらなる研究が進められる。

    この研究は、難聴治療の新しい可能性を開く重要な一歩です。

参考:過去の講演

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この記事を書いた人

通信関係の開発やってます。重度難聴で両耳人工内耳を装用しています。

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